ライトの下の光と影「今年の最優秀主演女優賞は誰の手に渡るのでしょうか?さあ、発表します……」
客席の最前列に座る時野星璃(ときの せいり) はドレスの裾を整え、立ち上がる準備をしていた。隣に座る人々も、すでに先走って彼女に祝福の言葉をかけ始めている。
「――春川美々(はるかわ みみ)さんです!おめでとうございます!」
司会者の声が響いた。
半ば立ち上がったところで、星璃の顔色は一瞬にして真っ白になった。
割れんばかりの拍手とざわめきの中、彼女はぎこちなく、気まずそうに席に着いた。爪先は深く掌に食い込み、痛みを覚えるほどだった。
ゆっくりと振り返った彼女の視線は、観客席の奥へと向かう。
一番隅の暗がりに、ひときわ存在感のある男が身を潜めていた。星璃には、その姿が一目で分かった。
彼女の婚約者――篠宮承司(しのみや しょうじ)。
しかし、彼がここにいるのは彼女のためではなく、舞台の上の美々のためだった。